山梨県笛吹市の境川地区に『藤垈(ふじぬた)の滝』という観光スポットがあります。
多くのミズバショウが人の手によって植えられており、3月下旬には『ミズバショウまつり』も行われます。
滝は、高さ1メートルで真夏でも12度という冷水。
実はここ、歴史が深いのです。
精神障害治療の滝として古くから知られていました。
この滝は甲斐百八霊場に数えられる万亀山向昌院の東側にある芹沢不動尊前のにあります。
1940(昭 和15)年の厚生省の『精神病者収容施設調』には、東八代郡境川村(現・笛吹市)の向昌院が掲載されているそうです。
林の中で湧き出る水は1年を通して水温12度を保っていて、霊泉、薬泉として滝壺にて頭を冷やす療法が、明和年間(1764~1772)に始まり、第二次世界大戦直後まで見られました。
患者と家族は寺の本堂や境内に建てられた施設で自炊しながら滞在していたといいます。
また、滝の近くに2軒の宿屋があっ て、ここにも患者と家族が泊まって治療を行っていました。
しかし、精神科病院が増設されていく時代に突入し、滝治療は1947(昭和22)年には廃止されたそうです。
こちらが現在の藤垈の滝
そしてこちらが昭和47年当時の藤垈の滝。
この年、滝治療は終焉を迎え、一時は荒れ果てたそうですが、
昭和49年ごろから復活の工事が始まり、公園が作られ、現在の観光スポットとなったようです。
日本では、平安から鎌倉時代まで精神障害のことを「狂う(たぶる)」とか、「乱心」と呼んでいました。
日本で最初の精神障害についての記載は、701年「大宝律令」という法律の中でした。医療施策について書かれた養老律令では、精神障がいは最も重い障害とされ、税や刑を免除されたそうです。
日本の特徴としてあげるとすれば、江戸時代まではヨーロッパのように迫害や監獄収容といった記録はなかったことが挙げられます。
また、室町時代から、精神障害に対する治療らしきものが始まりました。仏教寺院で行われ、加持祈祷や薬草、漢方、お灸など今でいう民間療法が主体でした。
全国各地では、「参籠」や「患者預かり」といって、寺で滝治療を受け、周辺農家に宿泊して農作業を手伝いながら長期療養するという文化が根付きました。
中には宿泊施設化し、世話人まで雇われるようになりました。また、京都岩倉の大雲寺では、大規模な患者預かりをしてきました。
しかし、明治時代に精神科病院が増設され、私宅監置が増えてからは、患者預かりのシステムは自然と消えていきました。
この日本独特の患者預かりという文化は、ヨーロッパ諸国とは異なり、その土地に根差して患者が大切にされていた時代、よき文化だったといえます。
歴史を感じながら、辺りに目をやると、
ニホンカワトンボ
そして、イトトンボの仲間と思しきもいました。
ヒメシャガの群落(おそらく人の手で植えられたもの)
公園にはクヌギやケヤキなど千本以上が植樹されています。
散策路も整備され、冷たい滝からの水路をぬう風はひんやりとして、夏は最高の避暑地になりそうです。