8月3日、3年ぶりに北アルプスの乗鞍岳畳平(標高2702m)のお花畑を見に行ってきました。今回も家族が付いてきてくれました。
乗鞍高原観光センターから出るシャトルバスを目指して向かい、8時のバスに乗って9時には畳平に到着しました。
前回訪れたのは2021年7月25日。ハクサンイチゲやクロユリなど高山植物がたくさん見られました。今年は「10年に1度の猛暑」とあって、お花畑の高山植物のピークはとうに過ぎているだろうと、期待しすぎずに行きます。
1.まさかの「熊出没による通行止め」
いざ!お花畑へ向かうと、何やら散策路入り口で人だかりが・・・。座って待機している人たちが10数名います。
「通行止め!?」
お花畑手前まで来て、ショックでしばし思考停止・・・。
本日10時頃から通行止め状態らしく、熊が出没するとタイムリーに散策路を通行止めにして安全を最優先にしているようです。
その時は、「熊がいるんだ~」「早く通行止めが解除にならないかな~」くらいの軽い気持ちで、待ち時間を惜しんで、しばらく別のルートを散策することに。
2.通行止めは解除されたけれど・・・
30分ほどして再びお花畑散策路に戻ると、鳥獣保護区管理員の方々がしばらく双眼鏡で監視して回っていましたが、「熊の姿が確認できないため、通行止めは解除しますが、十分注意してくださいね」と観光客にアナウンスし、入れるようになりました。
やはり、高山植物のピークはとうに過ぎていました。ちょっと寂しいお花畑。
10分ほどお花畑を散策していると、散策路の途中で数組の観光客が止まって何やら山側を見てざわついています。
近づいてみると、「熊だね~」と観光客数名が感嘆しながら、遠巻きに眺め写真を撮っています。私も数枚写真は撮ったものの、雪渓をに見に行った夫と子どもたちとの待ち合わせ時間が迫っていたため、来た道を引き返しました。
後々、冷静になって考えると、「鳥獣保護管理員もどこかにいるだろうし」「他にも数名の観光客と一緒だし」「遠いからまさかこっちに来ないだろう」と、気が大きくなっていた自分に気づき恐ろしくなりました。もし待ち合わせしていなければ、私は間違いなくお花畑を周遊(約30分程度)していただろうと思います。
これは、災害時などに起こりやすい正常化バイアス(=予期せぬ異常事態でも平静を保つ心理状態)が働いていたんだと思います。
3.乗鞍岳で過去に起こった悲しい熊襲撃事件
乗鞍岳で熊に遭遇して、10年以上前に乗鞍岳で観光客が熊に襲われているニュース映像を思い出しました。数日後、写真データを整理しながら気になってネットで調べてみたら、大きな事件だったことが分かりました。
「乗鞍岳バスターミナル熊襲撃事件」
9月19日午後2時過ぎ、オスの熊が畳平の北東にある大黒岳から駆け下りてきて、バス、鉄柵に衝突しながらやがてパニックに陥り、大勢の人がいるバスターミナルの駐車場やに逃げ込んだ。観光客や山小屋スタッフ、バスターミナルスタッフ計10名が次々に襲われ、襲撃された人のほとんどは顔を狙われる重傷を負った。
岐阜大学『乗鞍岳で発生したツキノワグマによる人身事故の調査報告書』によると、「クマが大黒岳の上部で採食に夢中になっているときに、近くにいた登山者が大声を出すなどしたため、驚いて斜面を駆け下りた可能性が考えられる」と推測しています。
また、襲われた観光客を助けようと、熊に石を投げたり杖で叩いたり、大声を出したり、バスやタクシーの運転手がクラクションを鳴らして威嚇したりしたことが、不幸にも熊を極限まで追いつめてしまったのです。射殺された熊にとっても、人間にとっても、不幸な出来事になってしまいました。
畳平周辺はもともと熊の生息地。熊は夏になると高山植物のハイマツやコケモモの実などを求めて標高3000m級の高山帯まで登ってくるので、毎日と言っていいほど目撃情報があります。
大自然の中では、「熊が出た!」というよりも、「人間が出た!」という方が正しい。人間が野生動物の生息地の山を切り開いて、登山や観光に出かけていることを忘れてはいけないのだな、と気づかされました。
4.とにかく「熊に出会わない」ことが最重要!!
熊は非常に警戒心が強いので、人間から距離を取って行動しています。熊のほうから人間に気づいてよけてもらうことが何よりも重要。
❶遠くからでも聞こえるように熊鈴を付け音を立てる
❷手を叩く、おしゃべり、笛を吹くなど音を出して行動する
❸2人以上で行動し、万が一のときに助けを呼べるようにする
❹周囲のガサガサ鳴る音、枝がパキパキ折れる音に注意する
❺子熊がいても決して近づかない(近くに親熊がいる)
5.もし熊に出会ったら・・・
❶熊に出会っても慌てない
❷熊を挑発しない
❸熊の目を見たままゆっくり後ずさりして離れる
❹決して背中を向けて走って逃げてはいけない(追いかけられる)
❺弁当やザックなどを置いて逃げてはいけない(さらに狙われる)
熊撃退スプレーで反撃するという手もありますが、恐怖でそんなに至近距離からスプレーできる自信はないので、私だったら携帯していても意味がない気がします。
6.熊の生態を知って不幸な事故をなくす
熊の生態を知らずに、熊鈴を付けて行動しない登山者や観光客が非常に多く、人間側の意識の低さが熊との不幸な事故を生んでしまいます。
何を隠そうこの私も、登山するときには熊鈴を必ず付けていたにもかかわらず、畳平のお花畑=観光地という先入観から「まさかあんな人がたくさんのいる場所に熊が出るわけない」と思い込み、何の対策もしていませんでした。標高2702mの高山帯なのに、自分の愚かさが空恐ろしくなりました・・・。
乗鞍岳に限らず、最近では市街地でも熊が出没することがあり社会問題化しています。過疎化が進む地域では、空き家や山林が放置され、熊にとっての食料源になっているそうです。人間側が野生動物の生息域に進出していった結果、人間と野生動物との距離がどんどん狭くなり、人身被害や新興感染症の拡大にもつながっています。
熊はもともと臆病で非常に警戒心が強く人間をよけて行動している、という生態を知って、「慌てない、挑発しない」が基本。
人間と野生動物とが適切な距離を保って互いが生存できる道を探るのが一番ですね~。