飛紅真の手紙

自然、アート、社会問題を静かに叫ぶ。

「自分とは違う」という理由で「発達障害」に分類したがる人たち

学校や職場で問題が起きると、「発達じゃね?」「発達障害の傾向がある」「発達特性」「発達の凸凹」「発達の偏りがある」「軽い発達障害」といい加減なレッテルを貼り、本人の責任にして自分たちの問題に向き合おうとしない人たちがいます。

挙句あげくの果ては、ネット上で勝手に「発達障害チェック」「ADHD診断」をして、「あてはまるから精神科を受診して検査してもらった方がいいよ!」とお節介を焼いて、相手に精神科受診を強制しようとする人までいます。

「自分とは違う」というだけで相手を排除しようとしていることに気づいていません。

なんて不寛容で短絡的なのだろう~。

 

1.新人看護師を発達障害に当てはめようとする先輩看護師たち

正直、辟易へきえきしています。

私は精神科病院で新人看護師のメンタルヘルスケアを担当していますが、「発達障害かも問題」に何度も巻き込まれてきました。

民間の精神科病院に就職してくる新人看護師は少数派。私のように大学時代から精神科一筋というタイプはむしろ珍しく、「一般病院は忙しいからイヤだ」「メンタル問題を抱えている」「看護教員に精神科病院を強く勧められた」などの個人的事情から精神科を選ぶ場合が多いのです。

だからこそ、個性的な新人看護師が割と多く、現場の先輩看護師たちが育成に苦労するのもよくわかります。

にしても、新人看護師が、

指示通りに動かない

空気を読まない発言をする

ミスが多い

気が散って落ち着きがない

テンションが高い

緊張しっぱなし

先輩にいちいち楯突く

自己中心的

ってだけで、すぐに「コイツは発達障害だ!」=生まれつきの障害と決めつけて、「本人の問題であり自分たち育成側の責任ではない」と 、安堵あんどして開き直るのは、いかがなものでしょうか。

あまりにも医学的知識がなさすぎ・・・というか、それでも精神科看護師?と、内心毒づく私です。

 

2.発達障害は幼児期から起こる

私の相談室では、新人看護師のリアリティショック・離職防止とメンタルフォローのために、2ヶ月に1回、1時間程度のフォローアップ面接を行っています。自然な会話の中から、子ども時代のことや学生時代のこと、アルバイト経験、家族背景、友人関係、なぜ看護師を選んだのか、休日の過ごし方など、新人の全体像を把握するように努めています。

いままで、幼少期に言葉が遅い、視線が合わないなどの発達上の問題を指摘されていたとか、特別支援学級に入っていたとか、授業中に少しも椅子に座っていられず動き回っていた、とかいう新人は一人もいません。

つまり、幼児期に起こる生まれつきの発達障害ではないのです!

発達障害と診断されるほどの状態であれば、乳幼児健診や就学時検診で必ず引っかかるし、教員やスクールカウンセラーからも早くに指摘され、成績表にもコメントが書かれ、特別支援学級に入ったことのある人がほとんどで、見逃されたまま大人になるなんてことはまずありません

さらには、看護学校を卒業し、国家試験に合格し、就職面接で内定を得られているのであれば、発達障害ではありません。

すぐに発達障害と決めつけようとする人は、本物の発達障害で苦しんでいる人を見たことがないのでしょう。精神科にはあまり入院してこないのも事実です。自閉症の子どもさんたちに1日付き添ったことがありますが、一日中追いかけ回さねばならず、ぶっ倒れそうなくらいアクティブでした。

 

3.本当の問題を見逃してしまう危険性

先輩看護師たちは、いま職場で表面化している「現象」を問題視し、「あの子は発達だから仕方ない」と決めつけ距離を置くのは非常に危険なことです。

もしかすると、

先輩たちの指導やフォロー体制が間違っているのかもしれない。

考え方のクセ(認知のゆがみ)があるのかもしれない。

プライベートで大きな問題を抱え悩んでいるのかもしれない。

眠れていないのかもしれない。

別の精神疾患があるのかもしれない。

トラウマに苦しんでいるのかもしれない。

隠れた問題を見ようとも想像しようともとせず、腫れ物に触るように接したり、勝手に発達障害向けの「合理的な配慮」をしたりして、新人看護師を職場からどんどん孤立させていくのです。

先日は、先輩が新人にハラスメントを起こしたにもかかわらず、「新人にも問題がある」「先輩の行動にも一理ある」と、職場全体が先輩を擁護する雰囲気に変わってしまっていました。つまり、被害者にも落ち度がある、いじめられた側にも問題があるという、私の大嫌いな論理のすり替えです。

無意識だからタチが悪いのです。こういうのを公正世界信念(=悪いことをした人は当然の報いを受ける)というのでしょう。自分たちの心理的な安定のために本当の悪者探しが始まるのです。

さらには、部署内で「発達特性のある人へのかかわり方」についての学習会を開き、全員に発達特性セルフチェックをさせ新人にそれとなく自分の特性に気づいてもらおうとしていました。

私ははらわたが煮えくり返り、「ハラスメントと新人の性格とは関係ありません!悪いのはその先輩です!」と管理者に目を覚ましてもらい、そんな公開処刑のような学習会はすぐに取りやめてもらいました・・・。

 

4.ダイバーシティ?ソーシャル・インクルージョン?

管理者が部下と一緒になって新人を追いつめることもよく起こります。完全に部下に巻き込まれて客観性を見失うなんてリーダー失格です。

トップマネージャーまでもが「発達だよ」「特性があるから」と新人の責任にしようとしたので、さすがに上司だけど「新人は弱者です!守られるべきは離職リスクの高い新人で、先輩たちは守るべき立場です!!こういう時こそストレングスモデル(強みやいいところ)で新人を見てください!」と、一喝させてもらいました。

新人は職場では圧倒的な弱者です。擁護されるべきはベテランの先輩ではなく新人のはず。新人がなかなか育たないと、すぐに新人バッシングが始まり排除しようとするのは看護師の悪いクセです。なぜ自分たちのコミュニケーションや指導体制を顧みないのでしょう。

社会人1年目&看護師1年目なんて周りからは「何も知らない宇宙人」に見えて当然です。自分たちもそうだったことをすっかり忘れてしまったのでしょうか?私もそりゃぁひどい宇宙人でした(笑)

新人がメンタル不調で休職したり離職していくのを、「あれじゃ続かないよね~(笑)」と冷笑し、最後まで新人のせいにするほどの感覚麻痺、思考停止を起こしているのことに、いい加減気づけ!と言いたい。

ダイバーシティ(多様性)だとか、ソーシャル・インクルージョン(あらゆる人を平等に受け入れ包摂する)だとかが叫ばれる今日、医療者にそのような寛容さがなく、身内に厳しいのはいかがなものでしょう。一人だけ好き勝手は許さない!お前も私たちと同じように我慢しろ!という同調圧力の塊です。

グレーなものを抱擁する、不完全で不確実なものを許容する、違和感を抱えた状態に耐えるネガティブケイパビリティこそ、支援には必要なはず。