飛紅真の手紙

自然、アート、社会問題を静かに叫ぶ。

精神看護専門看護師がマインドフルネスの効果をとことん医学的にわかりやすく解説してみた!

2020年のコロナ禍以降、医療従事者のメンタルヘルス研修講師を頼まれることが多く、突き詰めた先がマインドフルネスでした。道具なしで誰にでもいつでもできて、たぶん死ぬまで役に立つ「メンタルヘルススキル」であり「生き方」だから。

ところが、仏教の瞑想から生まれたせいか、スピリチュアルに偏って解釈されがちで、その素晴らしさが理解されていません。日常のストレス解消だけでなく、最新のトラウマ治療として注目されているのに非常にもったいない!!

今年は新たな挑戦として、マインドフルネスをとことん医学的に解説できないかな~、と考えイチから研修を組み立て直し、実際に看護協会で看護師向けに研修しました。今年私が最も頑張った仕事の一つです。

これはコンテンツとして是非残したい!!もっともっと多くの人に癒しを届けたい!!と思ったので、ブログに残します。

※今回は長いブログなので休み休み読んでください(笑)

 

1.自分自身のストレスには気づきにくい

気づかぬうちに疲れやストレスを溜めていないでしょうか?

「いくら寝ても疲れがとれない」「家に帰ったら疲れ切って何もする気力がない」「休日も仕事のことを考えて気が休まらない」ということはありませんか?

「自分は大丈夫」と思っていても、ある日突然体調不良に襲われたり、朝起きられなくなる、理由もなく涙が出て止まらなくなる、突然の休職を余儀なくされたり、治療が必要になることで、ようやく心身の限界に気づくということがあります。

人間は、ストレスがかかっているとき、抗ストレスホルモンのアドレナリンやコルチゾールを分泌して興奮状態になり、ストレスに抵抗します。この間は身体にストレス反応が現れないどころか、むしろ心身の調子が上がってドーピングされた状態のため、疲労していることに気づけません。

気づかぬまま頑張り続けると、抗ストレスホルモンが枯渇した時に一気に自覚症状が襲ってきます。

また、人は、あまりにもつらすぎる状況だと、つらく感じないようにできています。ポリヴェーガル理論*1では、逃げることも闘うこともできないストレス状態が続くと、副交感神経の一種である背側迷走神経を働かせて、「凍りつき(フリーズ)」、苦痛を切り離して生き延びようとすることがわかっています。

私たちは、かなり自覚的に、ストレスがかかっているか、疲れているかを探らないと、気づけないという生まれ持った性質があるのです。

 

2.心身のリラックスでは脳疲労は癒せない

疲れを自覚した時にどのように対処していますか?休みの日にひたすら寝る、家で1日ぼーっとして過ごす、温泉に入る、好きなものを飲んだり食べたりしてリラックスする・・・などでしょうか?

もちろん身体を休めることも大切ですが、実はそれだけでは回復しない疲労があります。それが脳の疲れです。多くの人は「休息=身体を休めること」という誤解から、脳の疲れを蓄積させています。

何もせずぼーっとしていれば、脳は休まるんじゃないの?と思われるでしょうが、むしろ脳は、何もしないだけでどんどんエネルギーを消耗して勝手に疲れていきます。結局のところ、脳が休まらなければ本当の休息にはならないのです。

 

3.脳疲労の正体はデフォルト・モード・ネットワーク
現代は「ながら作業」=「マルチタスク」の時代。一つのことに集中することができなくなっています。「ながらスマホ」や「動画を流しながら家事」「ひたすらSNSチェック」などなど・・・。

目の前のことを何気なくこなしているとき、心はつねに過去や未来にさまよって雑念でいっぱいになっています。自動操縦モードで飛んでいる飛行機のような、「心ここにあらず」の状態です。

600万年も狩猟採集生活を続けてきた人間の脳は、本来一つのこと(シングルタスク)しか集中できないようにプログラムされています。マルチタスクは脳を緩やかに酷使し、脳疲労を生んでいるのです。

脳は身体のエネルギーの20%を消費する、浪費家です。人間は、ぼーっとしているとき、何にも集中していない時に、過去や未来を行ったり来たり、雑念が浮かんでは消えを繰り返しながら脳が活発に活動しています。

この脳の領域を「デフォルト・モード・ネットワーク」*2といって、「心がさまよっているときに働く脳神経回路」のことで、マーカス・レイクルが2002年に発見しました。

さまざまな危機に対処できるように、いつでも脳を動かせるようにアイドリングしている状態で、太古の昔から人間の脳に備わった生存本能です。

デフォルト・モード・ネットワークでは脳内の8割ものエネルギーが消費され、脳の疲れの正体がここにあります。

また、人間の脳は1日の半分の時間をマインドワンダリング(心がさまよっている状態)に費やしており、ネガティブなことを考えやすいとされています。

一方で、アスリートのように極限まで集中力が高まりリラックスした状態を「フロー状態」「ゾーン」といい、驚異のパフォーマンスを出せる究極のシングルタスク状態と言えます。

このとき、脳内にセロトニンやエンドルフィンなどの疲労を防止し不安を下げる神経伝達物質が分泌されます。シングルタスクに集中していると脳は疲れないどころか、リフレッシュしエネルギーが充填されるのです。

脳を休めたければ、一つのことに集中する時間を増やし雑念を抑えることが重要なのです。

 

4.マインドフルネスの起源は2500年前のインド仏教

マインドフルネスには仏教と医学のふたつのルーツがあります。

仏教のルーツとしては、2500年前に仏教の開祖ブッダの「悩み苦しみのない悟りをめざす」瞑想がアジアに広く伝えられ、日本では「座禅」として根付いてきました。

医学のルーツとしては、1979年にアメリカの分子生物学者ジョン・カバットジンが、仏教の教えは、苦しみを抱えた人が多く集まる病院にこそ役に立つと感じ、慢性疼痛の患者に対し「マインドフルネスストレス低減法」(MBSR)*3を開発しました。

以降、病気の治療にとどまらず、ストレス解消、ビジネス分野など誰でも日常的に取り組めるものとして、広まりました。

毎日お世話になっている、グーグル、フェイスブック、アップル、インテルといった世界トップ企業も職員研修としてマインドフルネスを導入しています。

スティーブ・ジョブズ氏、ビル・ゲイツ氏、イチロー選手なども熱心な瞑想の実践者といわれています。WHOも職場のメンタルヘルス対策としてマインドフルネスを推奨しているほど、医学、心理学、脳科学、免疫学の面から科学的エビデンスが明らかにされています。

 

5.マインドフルな状態とは?

あなたは犬と散歩をしています。太陽はらんらんと輝き、木々の緑がとても美しい季節です。しかしあなたは、「仕事や人間関係、家族との葛藤」で頭がいっぱいです。

前を向いて考え事をしながら歩いているだけで、綺麗な景色は全く見えていません。一方で、犬は目の前の景色をまさにありのままに見ています。

この犬こそがマインドフルネスの状態なのです。

常に何かを考えながら過ごしていますが、時々ハッと我に返ることがあります。マインドフルネスは、このハッと我に返る瞬間の意識状態に近いのです。

心ここにあらずの状態を仏教では「無知(マインドレスネス)」といい、人間の心におけるデフォルト状態なのです。

 

6.道具なしで簡単5分でできるマインドフルネス

百聞は一見に如かず。まずは体験してみましょう。

集中しようとしても雑念が浮かんでくるものだと体感できましたか?人間誰しもデフォルト・モードネットワークが働いて心がさまようのは自然なことです。

集中できていないと自分を責める必要はなく、そんな自分に気づいて受け止めることが大切です。

集中できていないと自分を責める必要はなく、そんな自分に気づいて受け止めることが大切です。集中出来なくなった自分に気づき、また呼吸に注意を戻すための練習なのです。

呼吸に集中するだけで、脳が休息し充電することができるのです。

 

7.「いま、ここ」に意識を戻す脳の筋トレ

呼吸は、いま、ここに意識を向けるための最適なツールです。

呼吸は意識のいかりのような存在です。風が吹いたり波が荒れようと、錨があれば船はそこから流されません。どんなに雑念が心の中に吹き荒れても呼吸を見失わなければ、自分自身を見失うことはありません。

呼吸の瞑想は、雑念に気づいては呼吸に戻る、気づいては戻るの繰り返しによる脳の筋トレです。筋肉と同じように脳の「島皮質」の厚みが増し、素早く雑念から抜け出せるようになります。

また、雑念に気づいて呼吸に戻る繰り返しによって、「思考や感情は一瞬沸き起こった感覚の一つに過ぎず、脳が勝手に作り出した現象」だと気づくことができます。

呼吸に集中することで、うつ状態で陥りやすい反芻思考(繰り返し同じことを考える)が収まり、感情が安定化(脱中心化)します。

さらには、否定的な考えや感情に反応せず距離を置いて観察する「メタ認知」が養われ、物事を正しく認識できるようになります。

不安や恐怖に関わる扁桃体の体積が減少し、ストレスに過剰反応しにくくなる脳へと変つくりえることができるのです。

 

8.「疲れづらい脳」は自分でつくれる

脳は成人以降も成長し自らを変化させる神経可塑性があるため、「疲れづらい脳」へ脳の構造そのものを変えることができます。

マインドフルネスを継続している人では、この図のように脳の8つの脳領域で容積も密度も増え、脳構造そのものを変化させることが明らかになっています*4

デフォルト・モード・ネットワークの働きをコントロールできるようになるので、誰にでも、さまよわない心、疲れづらい脳をつくることができるのです。

 

9.「いま、ここ」へ

脳の疲れやストレスは、過去や未来から生まれます。

すでに終わったことをくよくよ悩み、これから起きるかもしれないことを不安にかられ、心ここにあらずの「Doingモード」が人間の脳の宿命です。

脳は放っておくと現在以外のことばかりに向かってしまうので、意図的に現在に向け変える必要があります。まずは、いまここにいる状態「Beingモード」を身体で覚えるのです。

マインドフルな脳の状態とは、いまここを生きる子どもや動物の心に近いといえるでしょう。子どもは何かに熱中している最中は別のことをくよくよ考えませんし、明日のことを心配する犬や猫はいません。

過去や未来から来るストレスから解放されることがマインドフルネスの目的です。

大切なのは、「ただ気づくこと」。疲れているのに無理をしていたなあと気づく。日頃さまざまな感覚を見過ごしていたことに気づく。

雑念だらけで呼吸に集中できなくても、大丈夫です。そんな自分に気づくことこそがマインドフルネスなのです。

1分でも5分でもいいので、思い出したときに呼吸に注意を向けて「いまここ」に戻り、自分自身に気づきを向けることで、脳疲労を癒してあげてください。

 

~おまけ~マインドフルネスを医学的に学べるオススメ本

1)佐渡充洋ほか編(2018):『マインドフルネスを医学的にゼロから解説する本』

紙の本しか出版されていませんが、医学的根拠が詰まって誰かに根拠をもって説明したい、根拠がないと納得できないという人には一番オススメ。↓ ↓ ↓

 

2)有光興記(2017):『図解 マインドフルネス瞑想がよくわかる本』

Kindle版ありで、図解なのでわかりやすく、仏教の面からもしっかり解説されています。よくわかる本シリーズは本当に助かります。↓ ↓ ↓

 

3)久賀谷亮(2106):『世界のエリートがやっている最高の休息法』

Kindle版ありで、ストーリー仕立てで読みやすいのに、医学的根拠をしっかり説明されていて素晴らしいの一言。簡単に理解したい人はまずはココから。↓ ↓ ↓

*1:ステファン・W・ポージェス(2018):ポリヴェーガル理論入門 心身に変革をおこす「安全」と「絆」

*2:Reichle,Marcus E.,and Debra A.Gusnard.”Apprasing the brin‘s energy budget.” Proceeding of the National Academy of scieneces 99.16(2002):10237-10239.

*3:ジョン・カバットジン(2007):マインドフルネスストレス低減法,北大路書房

*4:Fox,Kieran CR,et al.”Is meditation associated with alterd brain structure? A systematic review and meta-analysis of morphometric neuroimaging in meditation practitioners." Neuroscience & Biobehavioral reviews 43(2014):48-73.