気温も湿度も高くムシムシして体中がベタつく夏の昼間に入る温泉って、地味に過酷です。それこそバンバンに五感を使う体験そのもの。
山梨県は早川町の秘湯、奈良田温泉に5歳の長女と一緒に日帰り入浴をしてきました。
独身時代から泉質にこだわり温泉巡りをしてきた温泉大好きな私ですが、出産後は気軽に日帰り温泉できなくなりました。
特に私が愛している秘湯が、「奥山梨」といわれる早川町の、それも最奥(標高825m)にある奈良田温泉。
もう何回行っているかな・・・最低10回は行っています。今回は6年ぶりに行くことができました。
奈良田温泉の先まで行くともう南アルプスの玄関口、広河原。日本で2番目に高い山、北岳に登る登山者でにぎわっています。
奈良田温泉といえば「マツコの知らない世界」でも紹介された、日本秘湯の会所属の超有名な温泉宿、「白根館」があります。2020年に宿泊は停止し、現在は日帰り入浴のみ。
私は宿泊も日帰り入浴も経験していますが、廃業に至らなくて本当によかったです。あの温泉は山梨県全体で意地でも守り続けてほしい!!!
奈良田温泉のちょっと下にも超有名な温泉地、西山温泉があります。ギネス認定世界最古の宿「慶雲館」に泊まったレポはこちら。↓ ↓ ↓
日本最古の秘湯の一つという希少性と、泉質のすばらしさ、山奥というロケーションの素晴らしさから、いつ行っても心身が満たされる感じがする温泉です。
苔むした階段と、結構急な坂道を上ってゆくと町営奈良田の里温泉があります。
この道は、昭和の集落感が残って情緒豊かで好きです。貯水槽に金魚が泳いでいたり、アジサイがたくさん咲いていたり、緑色の大きな蛾が止まっていたり、普段田舎に住んでいる私ですら「タイムスリップしてきた」感じになるのです。
奈良田湖。水力発電用のダムです。この下には奈良田の集落が沈んでいます。
ここ、奈良田の里温泉は「女帝の湯」と名付けられています。奈良田温泉には奈良時代に孝謙天皇という女帝が8年間逗留していた記録が残っています。
現代のように医療が発達していなかった時代には、温泉に入って病気やけがの回復を早める「湯治(とうじ)」という考え方があり、万能薬のような役目を果たしていたといわれています。特に皇族を中心に湯治が取り入れられ、その後各階層の人達にも普及していったようです。
「こんな山奥に天皇が湯治に訪れていたんだなぁ」と思うと、どれだけ過酷な旅であったろうか、そこまでしても病気を治したかったんだなあ、といつも考えてしまうのです。
奈良から山梨までの移動手段を考えると、富士川を船で渡って、馬車や牛舎でふもとから上がってきたんだろうなあ、いまのように整備された国道なんてないし、山賊や獣が出たり・・・それはそれは厳しいものがあったと思います。
今では考えられない壮大な旅。こんなことができるのは、多くの人を使える豪族か皇族くらいのものでしょう。
そこまでしても、ここまで湯治に来たかったんだと思うと、有難いようななんだか不思議な気持ちになってくるのです。
内湯だけですが、源泉かけ流し。
大体北岳の登山者が汗を流しににぎわっています。
奈良田湖を見下ろしながら入る町営の秘湯は大人700円ですが、お値段をはるかに超える格別の贅沢感が味わえます。何しろ「ここまで来たぞ感」がよりそうさせるのかもしれません。
温泉総選挙でも東日本1位。アルカリ性温泉ではph値は8.5とそんなに高いわけではないのに、お肌が化粧水をまとったようにヌルヌルトロトロしてきます。気泡もあるよう。
「アルカリ性が強い温泉はヌルヌルする」とよく言われますが、女帝の湯の場合は少し違います。
「PHが高い事に加え、カルシウム、マグネシウムが少ない」事がヌルヌルの秘密。
この絶妙なバランスは、まさしく大地の恵み。他ではなかなか味わえない温泉です。
奈良田の里温泉女帝の湯 ホームページより引用
山奥の秘湯なので、脱衣所にはエアコンはなく扇風機だけなので、温泉から出た後も汗が出てじっとりしてきます。外は34℃、湿度は80%を超えていそうなムシムシ感。
なにしろ周囲を高い南アルプスに囲まれていてあちこち苔むしているので、湿度は相当高い感じ。
晩夏のミンミンゼミの声がまとわりつく暑さに追い打ちをかけてくるよう。
日本の夏の温泉って、これだから過酷。温泉に入ってサッパリ、はない。それどころか、温泉で体の芯から温まったおかげで逆に汗が体中から噴き出してきます。涼しい場所を求めてどこでもいいから入りたくなります。
でも、そんな汗が引かない、暑さをどこまでも道連れにするような夏の日帰り温泉って、五感で日本の暑い夏を感じさせてくれます。うだるような真夏の夜にうちわを仰ぎながら見上げる花火大会や、プールや海に入った後で炎天下の暑い中をぶらぶら帰る、あの感覚に似た感じ。
奈良田の里温泉の近くにできたと知り、階段を昇ってひと汗かいて向かったかき氷屋さんは、予約で席がいっぱい・・・。
この暑い中、長女は走り回って自分から汗をかきにいっている。
暑い暑い、本当に暑い。とにかく蒸し暑い。
けど、やっぱりいい。なんでだろう。山奥の晩夏の秘湯。