5年ほど前まで私は、プレゼンや研修講師の際には原稿を手放せませんでした。
いま思えば、「大切なことをちゃんと相手に届ける」ということよりも、
「完璧にやり遂げたい」⇒カッコよくいたい、デキると思われたい
「あれもこれも伝えたい」⇒欲張り、自分本位
「途中で真っ白になったら怖い」⇒失敗したくない、自分に自信がない
というメンタルだったと思います。
1.ビジュアルと内容重視のプレゼンテーションスタイル
私の現在の仕事の一つに「教育」があります。
自施設の職員研修だけでなく、外部講師の仕事も多数引き受けています。聴衆は少ないときには10人、多いときで100人というサイズ感まであります。
私はパワーポイントのグラフィックに異常なまでのこだわりを有しています。スライドテンプレート、フォント、カラー、図式化など、細部にこだわるあまり作成にかなりの時間がかかっています。
プレゼン内容についても、テーマに沿って多数の論文、法律、歴史的背景、関連書籍、ニュースなどを収集し読み込んで、まず自分が人に説明できるくらい理解してから、わかりやすく噛み砕いて文章化・視覚化できるまでに、ある程度の時間が必要になります。
こうして見た目・内容に重点を置くあまり、肝心の「伝える」ことが疎かになっていたのです。
性暴力についての私が作成した研修スライドの例 ↓ ↓ ↓


2.原稿にがんじがらめにされていたと気づいた
「ビジュアル」では見やすくても、「聞く」となると話は別です。
30分以上の研修を飽きさせず、しかも記憶に残すため、感動を与えるためには、原稿を読んでいるようでは全くダメなのです。聞き手の集中力や満足度は下がってしまいます。
始めの頃、原稿を一語一句読んでいたときには、
「途中で真っ白になる」
「スライドと原稿が合わなくなって焦る」
という現象がたびたび起こりました。原稿を話し言葉で補足しながら読み上げていくと、どうしてもスライドと合わなくなってくるのです。
原稿は書き言葉なので、難しい言い回しや、説明も長くなりにもなりやすく、聴衆の理解のスピードと私の読み上げが合っていない“ちぐはぐさ“を感じ始め、話しながらも「一体私は何をやっているんだ?」と自分でも滑稽になってきます。
原稿を律儀に読んでいると、研修時間も5分とかオーバーしてしまいさらに自己嫌悪に陥るのです。
研修のたびに原稿を十数ページと印刷しては研修が終われば捨てる・・・という手間や無駄も馬鹿らしくなってきて、原稿にがんじがらめに縛られていた自分に気づき、
「こんな茶番はやめたい」と思うようになりました。
思えば、それまでは大勢の人前でプレゼンするのなんて、卒論や修士論文発表や学会発表くらいなものでした。6分間とか8分間など発表時間が限られた中では、
「プレゼンテーションには一語一句原稿を作って練習してから臨め」が当たり前だったのです。
しかし、精神看護専門看護師となって教育的立場で講義や研修をするようになって、研修時間も短いもので1コマ30分、長いものでは90分ある長尺を、原稿をぜんぶ読むなんてことは不可能なのです。
新人研修や大学の講義など、聴衆が毎回変わるものに関しては講義内容のベースは同じ。何年も同じ内容を話していると人間だんだんと慣れてくるもので、スライドを見ただけで何を話すべきか自然に出てくるようになってきていました。
自分のものになっていればいいんだ、自分の言葉で話せばいいんだ、という至極当然のことに気づいたのです。
3.思い切って原稿作りを断捨離した
「もう原稿は読まない」
「もう原稿には頼らない」
と決意してからは、原稿づくりの時間をスライド作成に充てられるようになりました。研修準備の段階で内容を厚くしておき、本番で時間が足りなくなりそうならスライドを端折ったり、説明分量の微調整が可能になりました。
また、スライド1枚で何を話すべきかが自分自身にわかるよう、スライドには大事なポイントだけを入れるようになりました。そうすれば無駄なスライドは生まれません。
ということは内容勝負なのです。いかに聞き手を刺激し、自分のアタマで考える機会にできるか・・・が重要となります。大切なのは面白く刺激的な研修作りにかかってきます。
臨床現場の医療従事者はすでに専門職なので、専門職に知識や答えを伝えても釈迦に説法。
「知識」「答え」=“What(何を)”を伝えるのではなく、
「なぜこれが必要なのか」=“Why(なぜ)”を伝えるのです。
つまり物事の本質を伝え、思考の訓練をすることが重要だと思っています。
そうでなければ、臨床現場で課題にぶち当たった時に自分のアタマで考えようとせず自動思考になるし、経験則からいままでと同じことをただ繰り返しかねません。
看護職はどんなにやり方が古くて非効率であってもルーチンワーク(習慣、日課、型にハマった決まりきった作業)にものすごく依存し、こだわりやすい面があります。そうでもしなければ絶え間なく続く「患者の変化」に疲弊し、自分自身を保てないからです。
このルーチン化した看護職の業務を一旦崩し、自分のアタマで問い直し、その都度柔軟に対応できるようにするのはとても大きな変化が必要。
けれど、変化に対応しやすい看護職に育てることはできます。それが「自分のアタマでで考えられるかどうか」です。私は日々そこを刺激し、育てたい、と思っているのです。
※私は研修ではなるべく演習、自己チェックやグループワーク、ワールドカフェなどを多用し自分のアタマで考えられる時間を設けています。
4.本番で聞き手を引き込むコツ
原稿を作らないということは、まず自分がよく理解して説明できなければ話になりません。スライド1枚1枚を見ただけで説明できるよう、作成段階から「ここでは何を話すか」を想定しておきます。
一つのスライドにストーリーを織り交ぜると説明しやすくなり、聞き手を引き込みやすくなります。
「○○な時に困りますよね。どうすればいいでしょう?。ポイントは・・・」
「実は○○の裏には△△なエピソードがあったんです!それは・・・」
など。実体験や歴史的事実、事件やニュースも織り込み、自分事に感じられるように聞き手を巻き込んでいくのです。
また、
「○○って知っていますか?」
「△△ってどう思いますか?」
など、実際に質問まではしなくても聞き手に投げかけ、自分の中で考える時間を数秒与えます。これをすると、テキメンにウトウトしなくなりますね。質問されるかもとドキドキするのでしょう(笑)。
原稿が不要になると必然的に前を向く、つまり聞き手とよくアイコンタクトすることで、聞き手の表情や雰囲気から理解度をつかみやすくなります。
手が空くので、普段は用いないジェスチャーも多用するようになります(笑)。
緊張を減らし、自由自在にプレゼンできるのだという自己コントロール感を高めるコツとして、レーザーポインターを使用します。
PowerPointの発表者ツールのポインター(マウスで操作し画面上にポインターを映し出す)ではなく、ちゃんとアナログのレーザーポインターを手に握って操作するのです。
そうすると、パソコンの前に立ち尽くす必要がなくなるし、前に出てスライドを見ながらレーザーポインターで聞き手を注目させ、聞き手にアイコンタクトもしやすくなります。
聞き手ばかりを見て話していると、
「私いまどこを話しているんだっけ?」
「次に何に話すんだけ?」
と真っ白になる瞬間がありますが、自分の話を聴かせながら、時々スライドに戻る、という効果的な使い方ができます。
また、心理学的にはペンなどの握りやすいものを手に持って話すと緊張が和らぐといわれています。ペンタイプのレーザーポインターはプレゼンには最適なツールなのです。
聞き手とよく目が合い、うなづきを確認できたり、ほとんどの聴衆が前を向いて聞いている、という状態になっていれば、「プレゼン成功!」と実感します。
笑いが起こったり、驚きやショックで表情が変わったりすれば結構インパクトを与えられている場合もあります。一生懸命私の話をメモしている、目に涙を浮かべている、なんていうのも嬉しいものです。
大抵はそういう研修はアンケート評価も高いように思います。
自己満足ではなく、聞き手にしっかり届け、心を揺さぶり記憶に残るプレゼンを目指したいです。
これからも試行錯誤は続きます。