飛紅真の手紙

自然、アート、社会問題を静かに叫ぶ。

原爆体験を子どもたちにどう伝え残すべきなのか。

広島・長崎への原爆投下から78年。

「78年も経っているのか!」と思うと本当にびっくりします。それは、原爆体験はさまざまな形で伝えられてきたことで、決して「色褪せない」と思うからです。

だからこそ、あの手この手で「色褪せない」記録をこれからも伝え残していく必要があるよね、と毎年この時期になると強く思います。

2児の母となったいま、自分自身が受けた「平和教育」もふりかえりながら、今後どう伝え残すべきなのかを考えてみました。

 

1.「怖い」「つらい」体験だからこそ正面から伝えてほしい

今年、広島市の平和教育副教材から、広島の原爆投下とその後を描いた漫画『はだしのゲン』が削除されました。改訂会議で「いまの時代に合わない」「子どもが理解しにくい描写がある」「保守系団体から批判される」などの議論を経ての決定とのこと。

はだしのゲン 第1巻 青麦ゲン登場の巻

被爆地の広島が『はだしのゲン』を取り扱わないなんて、驚きというか、非常に残念です。他の地域でならまだわかるけど、広島は堂々と取り扱う権利があるんじゃないだろうか?

広島の子どもたちが『はだしのゲン』を知らない=原爆や核戦争について考える機会が減ってしまう、なんてことにならないように。

過去に原作者中沢啓治さんはNHKのインタビューで、被爆して亡くなった母親を葬儀で火葬したところ小さな骨しか残らず、

「原爆の放射能が骨の髄までとっていきやがったと。こりゃあもう許せんぞと。そこで原爆をテーマにしようと思った」

と作品の原動力となった“怒り“を語っています。

www.nhk.or.jp

そんな原作者もまた、原爆の悲惨さをどう表現するか悩んで描いたそうです。あの被爆者たちの衝撃的な描写でも、子どもに読んでもらうため怖さを最小限に抑えて描いたそうですが、

「これ以上簡単に描くと原爆じゃない」

という強い信念から、ああいった表現になったそう。

私は『はだしのゲン』がトラウマになった子どもの一人です。

小学校1年生の時、『はだしのゲン』のアニメ映画を観てからというもの、夜眠れなくなる、何度も被爆者の姿がフラッシュバックするなどものすごいショックを受けました。

1983年に製作されたアニメ映画は、原作者が漫画や実写映画では描ききれない原爆の真実を表現したいとの意図で、一部私財を投じて作られたといいます。なるほど、衝撃が割増しとなっていたわけですね。

はだしのゲン

私はトラウマになってもなお、『はだしのゲン』は子どもたちに伝え残すべきだと強く思っています。

『はだしのゲン』のように、被爆者が直接描いた作品というのは、当事者だからこそリアリティをもって直球で伝えてくれる非常に貴重で、説得力も半端ない唯一無二の絶対的なものです。「色褪せない記録」とはまさにこういうものだと思います。

特に子ども向けに作られた意図があるものは、慎重すぎてリアリティをこそげ落とされているものがほとんどなので、なおさら貴重です。

被爆者が描いた原爆の絵本などは大人が読んでも鳥肌が立つほどのリアリティと訴えかけるものがあります。

『はだしのゲン』の衝撃的な描写も、幼すぎると頭では理解できず感情だけが残りますが、子どもの発達や性格を踏まえても小学校3年生頃には理解可能ではないでしょうか。戦争の知識が全くない場合は理解の助けに補足説明が必要ですが。

「怖いから子どもには見せない」「いまの時代の子どもには理解できない」は、戦争がまたいつ起こってもおかしくない情勢の中、唯一の被爆国であり原発事故が起きた二つ目の国に暮らす人間として、もはや時代錯誤であり、世界で通用しないのではないでしょうか?

私は、高校時代に「ひめゆりの塔」の語り部や、長崎で被爆した語り部から幸運にもお話を聴くことができました。社会や日本史の授業で習ったどんな授業よりも強烈に自分の脳裏に刻まれ、血肉となりました。

たぶん、お話の内容もですが「当事者に会って話を聴く」ということ自体が何よりも説得力もメッセージ性も強く、「本当に被爆者が自分と同じ世界に生きて存在するんだ」と、社会問題をより身近に感じられるのではないか、と思います。

「古くて新しい」の当事者の体験を歪曲や省略なしに正面から伝えることで、子どもが自分なりの「意見」をもつこと、語れるようになることがとても大切です。

時代が進むにつれ当事者は亡くなられますが、風化することのないよう、誰かが当事者体験をしっかり形に残し、語り継いでいってもらいたいです。

そういった貴重な機会を創り、提供するのが大人の役割、親の役割だと思うのです。

 

2.NHKの尊い番組を子どもと一緒に観てほしい

この時期はNHKの録画番組を観るのに忙しい時期です。特に夏と年末年始はめちゃくちゃ重厚で素晴らしい番組が多いのです。

NHKは運営面で賛否あるけど、他のメディアが伝えない「基本的なこと」を膨大なコストと信用力を使って取材して伝えてくれる貴重なメディアだと思います。特に「弱者」のリアルを正面から伝え、私たちに考えさせてくれるから。

私はTVをほとんど観ないしリアルタイムでTVをつけることも全くないけど、NHKだけは録画して見続けています。これからも見続けたいと思っています。

 

今日も早朝から録画を見て涙、涙、涙。↓ ↓ ↓

www.nhk.jp

NHKがすごいところは、こういった35年前の番組も何回も何回も放送するという「ストックメディア」たるところ。

何十年後も色褪せない質の高い作品を作り込んでいるという自信があるし、当時の資料だけでなく当事者が必ず出てくる点でリアリティが半端ない。

家庭でこそできるのが、学校では教えない(教えられない)ことを伝えるということ。NHKも直球で答えのない社会問題を投げかけてくるのでこれ以上はないと思う教材の一つです。

TV番組は家庭でお手軽に観られるから、使わない手はないです。受信料も払っているのですから。

病院の職員研修でもNHK番組を使いたいのですが、著作権の問題もあり難しい。学校教員なら利用可能なので羨ましい限り。私が教員だったらめちゃくちゃ多用しますね。

SNSが発達したいまの子どもたちって、文字情報よりも動画や写真などの映像で見るほうが入っていきやすいので、こうした映像教材はますます使用価値が高まるのではないでしょうか。

NHKでは、子どもにとっては知るのは酷かな、と思う理不尽な社会問題も多く取り扱っていますが、そうした社会の不条理を知り考えさせるのもVUCA時代(先行き不透明で将来予測が困難)を生きる子どもには必要です。

親ですらTVやニュースを観ない、新聞を読まないことが多い現在、情報をどこからどう選び取るか、は非常に大事になってきます。

SNSの発信内容やネットニュースは真偽も定かでなく、情報の切り取りであることも多いため、信頼のおける情報元からの引用かどうかや、当事者の証言や資料が基になっているのかなどで「情報の質」が高いか低いかを判断した方がいいと思います。

「子どもに見せたい」「一緒に話し合いたい」と思う、信頼できるNHK番組は本当に多いので、これからも録画だけでなく再放送や、場合によっては有料配信動画なども含めて子どもたちと一緒に観ていきたいと思います。

事実を知った上で、「戦争することについてどう考える?」「核兵器の使用についてどう考える?」と問われたときに、子どもが自分なりの意見を用意しておけるように。