飛紅真の手紙

フェミニストで精神看護専門看護師ブロガー、自然、アート、社会問題を綴る。

「人類史上最悪の性虐待事件」を生んだ国でどう生きるか。

ジャニー喜多川氏の性虐待問題を国連人権理事会が訪日調査し、8月4日に会見を開きました。事務所、政府、メディアのあり方が批判され、「事務所タレント数百人が性虐待を受けた」ことが世界的に公になった、記念すべき日でもあります。

その直後に開かれた、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」の7人による会見もノーカットで観ましたが、当事者たちは「人類史上最悪の性虐待事件」と表現していて、この問題の重大さに鳥肌が立ちました。犠牲は4桁に達するのではないかと」とも言っていて、国連の調査をはるかに上回る深刻さ。

 

1.性暴力について考え続ける

70年以上の長期間に渡って同一人物が少年に性虐待を加え、誰も止めなかった、唯一止めることができたのは加害者の「死」だった。もはや、人は暴力の前には無力なのか?と、この世界を呪いたくなるような絶望感すら覚えました。

このことについてブログに書きたい・・・と思うのに、「何で日本は変わらないの?」と怒りに打ちひしがれて、何度も何度も手が止まりました。これが二次受傷(代理受傷)というのかもしれません。

でも、このことについて一人でも思考停止して蓋をすれば、また同じことの繰り返しです。考え続けることを私はやめたくないです。

私が性暴力問題を前に打ちひしがれるとき、いつも頭に浮かぶのが、Mr.childrenの『タガタメ』という曲。

性暴力被害を実名と顔出し公表し、本を出版した数少ない当事者の一人、小林美佳さんが著書『性犯罪被害にあうということ』の中で、彼女を支える元カレが「お前が聞くべき歌だから聞いて」と、教えてくれたというのが、この曲。この本を読んで、改めて『タガタメ』を聴き直しました。

性犯罪被害にあうということ (朝日文庫)

この曲は、未成年が巻き込まれる事件が立て続けに起こったことを題材につくられたと言われています。

メロディーは日清カップヌードルのCMで耳慣れていましたが、改めて歌詞を読みながら聴くと、泣けて、泣けて。

youtu.be

Mr.Childlenアルバム『シフクノオト』収録曲 ↓ ↓ ↓

タガタメ

2.ジェンダーによって性暴力を差別しない

国連の公式訪問を巡って、賛否両論あるのも事実です。「黒船来襲によって日本もようやく外圧で変わらざるを得なくなる」と歓迎する声がある一方で、「女性は歴史的にもっと虐待されてきたのに、被害者が男の子というだけで国連は動く。国連はミソジニー(女性差別、女性嫌悪)」と非難する声があることも、日本のジェンダーギャップの深刻さを物語るな、と思うのです。子どもへの性暴力問題においてすら、「女だから」「男だから」という論争が巻き起こる。日本の中で分断が起きているのです。ジェンダーギャップについてはコチラ。 ↓ ↓ ↓

www.hikoushin.com

でもね、私はこれを進歩だと思いたい。

元タレントが「ジャニーズ性加害問題当事者の会」を立ち上げ、実名で会見するっていままでなかったと思います。LGBTQの理解もまだまだ進まない社会で、男性が男性からの性被害を実名で公表するといリスクの高い行動なんて、皆無に近いのではないかと思います。実際、国の調査でも被害を受けた男性の7割が相談できていない、という実態が明らかになっていますし、実際にお話を伺ったワンストップセンターの支援者も、「男性の性被害は妊娠のリスクがないから相談しようというインセンティブが働かないし、偏見から被害を受け入れられずにほとんどが相談につながらない」と話していました。

今回のジャニーズ性暴力問題で、男性への性被害があるということがまず認識されたし、男性も相談してもいいんだ、という当たり前のことを多くの人が認識する機会になったんじゃないでしょうか。

 

3.性暴力の根っこにあるものを直視しよう

「女性の被害は軽視され、男性の被害は重大視される」と主張したくなる女性側の気持ちも理解できますが、根っこは同じなのです。それは、「弱者を軽んじる家父長制社会」だから。

年長者や権力者が絶対的に偉い、強いという家父長制社会では、立場の弱い若年者、女性や子どもに発言権も拒否権も与えられません。古きよき日本文化を守るのも大切ですが、行き過ぎた結果が、立場が弱い存在への暴力が隠され、見過ごされ、黙殺される、いまの日本だと思います。

今回、国連人権理事会作業部会より、「国の独立した人権機関がない」ことも指摘されています。日本の人権保障に対する考えの甘さが、外圧によってまたしても露呈しました。島国で、人種の多様性がないからこそ集団がみな同じであることを重んじる、「井の中の蛙大海を知らず」というのが日本。

今回実名公表が相次ぎ、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」が立ち上がったこと、国連人権理事会が2024年6月に調査報告書を公表することで、日本政府が大きく動くことを期待します。

今年7月、歴史的な刑法改正が行われたばかりで、性暴力についてより一層厳しくなりましたが、家庭内や学校、塾、あらゆる場所での子どもへの性暴力がさらに厳しく規制される法改正を願っています。

そして。

法律や企業、メディアが変わるだけじゃなく、社会の意識、一人ひとりの意識が変わることも願ってやみません。

ジャニーズ性加害問題当事者の会」副代表も、「皆さんに責任があり日本国全体の抱える問題です」「どうかメディアのみなさん、日本を守るためにこの問題を報じてください」と訴えかけています。

「人類史上最悪の性虐待事件」を生んだ国に生きる私たちの責任として、この問題に背を向けず、話題にし続けること、忘れないこと、性暴力が起きる根っこを考え続けること、が求められるよね?絶対。

タガタメ。

まずはそこから。