飛紅真の手紙

フェミニストで精神看護専門看護師ブロガー、自然、アート、社会問題を綴る。

ジャニーズ性虐待問題から露呈した低すぎる日本の人権意識

ジャニーズ事務所の2回目の会見から、性暴力に対する甘さ低すぎる人権意識が露呈し、改めて失望しました。

それは以下の理由からです。

 

1.事務所・メディア・スポンサー企業には全容解明する意思が見えない

「全容解明しないのか」という記者の質問に、再発防止特別チームの短期間の調査は終了し、それがすべてであるような弁護士の回答にひどく失望しました。

社名変更し廃業すれば60年続いた未成年に対する性虐待は終結するわけではありません。ジャニーズ事務所の隠ぺい体質、スポンサー企業やメディアの加担、芸能界全体の問題。そういう意味で、「日本がこれほど巨大な性虐待を生んだ構造」を解明してほしいのに。

ジャニーズ事務所が外部アドバイザーを入れて「人権ポリシーを掲げた」というのであれば、

「長い時間をかけてでも全容解明していく所存」

「メディアやスポンサー企業のみなさんも責任ある立場として全容解明に協力してほしい」

「日本全体の問題として国民も一緒に考えていただきたい」

と、なぜ言えなかったのか。

質問するメディア側も長期に隠ぺいし性虐待に加担してきたわけですが、1回目の会見では自己反省を述べるメディアがいたのが印象的でしたが、今回は皆無。

みなさん補償額や権利、新会社についてばかりに気が向くようで、自分たちの問題には目が向かない。

この問題の根本にある、

「性暴力が起こる背景には人権軽視がある」

「家父長制社会の中で強い立場の者が弱い立場を搾取する」

という、日本社会全体にはびこる風土を、

どうして芸能界、メディア、大手企業が率先して問題に取り上げ、どうしたらなくせるかを考えようとしないのでしょうか。

1回目の会見で東山新社長は「エンターテイメント業界の中で見本になるような」と言っていたと思うのですが、社名変更、謝罪、補償、廃業、エージェント会社設立。それで「やってる」つもりなのでしょうか。批判にさらされて後手後手に回ったとしか見えない。非常にお粗末としかいいようがありません。

今回の経営陣の説明を「評価する」というニュースのアナウンサー、コメンテーターがいましたが、にわかには信じられません。

 

2.当事者救済が最優先されない

タレントやファンに対しての対応が大切なのはよくわかります。

けれど、社名変更・補償・廃業と、新会社設立を同時に公表したのはマズかったと思います。

まず再出発よりも優先されるべきは当事者救済と全容解明、というのが私の意見です。

それが始まってもいないのに、エージェント会社設立、社名公募にはドン引きしました。当事者の立場を想像すると、まず問題と向き合って当事者と対話して救済に向けていく、再出発はそれからではないか、と。

「法を超えた補償」という割には、補償の内容も決まっていない中、会見の半分以上は再出発のことばかりで、正直言って「スポンサー企業・タレント・ファン離れ対策」としか映りませんでした。

ジャニーズ事務所の心のケア相談窓口も、心療内科医・公認心理師が対応しているということですが、肝心のその体制についての説明はなかったので、どれだけ万全なケア体制が敷かれているか非常に疑問です。

精神科クリニックやカウンセリングルームいくつかと契約して、長期的にケアするなどの体制があって当然なくらいの膨大な被害なのです。

全国の専門家は見ていられない、と気を揉んでいるだろうと思います。ジャニーズ事務所に対しそういった助言をしてくれる専門家はいないんでしょうか。

人類史上最悪の規模の性虐待なので、どれだけの対応をすべきかわからないのであれば、この際、国連に協力を仰いだらいかがでしょうか。

ジャニーズ事務所の手に負える規模の問題ではすでになくなっているのですから。

 

3.ジャニーズ事務所の当事者意識が低い

1社1問という防衛的な会見手法といい、弁護士が前面に立って回答するところといい、「落ち着きましょう」「全国の子どもたちも観ています」という立場をはき違えたコメントといい、

「ああやっぱりジャニーズ事務所はマウントするのね」

と、ジャニーズ事務所がなぜか記者たちよりも上に立とうとする姿勢に嫌悪感を禁じ得ませんでした。

甘んじて追及されるために開いた記者会見のはずが、これでは経営陣が問題の深刻さをわかっていないと映っても仕方がありません。

最も違和感を感じたのは、藤島ジュリー恵子氏が「加害者の親族として」と繰り返し、叔父のジャニー喜多川氏、母親のメリー氏との確執を長い手紙で明かすところ。これでは「自分は被害者だ」と言いたいようにも、問題と向き合おうとしていないようにも映りました。

会見の場で親族としての私情を持ち込み、同情を買う必要は微塵もなかったと思います。加害者親族としてではなく、前社長として説明責任があるのであって、経営責任から逃げてはいけないのです。

やはり長期に渡って殿様商売をしてきたジャニーズ事務所の体質は、数か月ではなかなか払拭できないんだな、と感じました。

 

4.日本政府が動こうとしない

日本政府の動きで私が把握しているのは、当事者の会を招聘した会議を開催し、「男児・男性被害相談窓口」を開設した、という情報だけです。

国連の指摘や国際批判にさらされているにも関わらず、「法的拘束力がなく従う義務はない」といった旨の内閣官房長官の発言があり、この国のトップの人権意識がそもそも低すぎるのだ、やっぱり、と思ってしまいました。

「大変遺憾。国連の指摘を真摯に受け止め全力で対応したい」

「国連の専門家、人権団体の協力を求めたい」

と言わないのはなぜか。

それは、性暴力を生む日本社会を形作ってきた張本人なので、その気がないからです。

なぜ「いまだ!」「やりたいと思っていたの!」と、ここぞとばかりに自国の弱さを直視して膿を出しきろうとしないのだ、日本政府。

この問題で重い腰を上げアクセルを踏まなければけないと思います。

 

5.自分たちの人権意識を疑え

政府もメディアも責任逃れをするような日本社会では、あとはもう国民の人権意識にかかっています。

残念ながら、日本国民の人権意識は海外と比較しても低すぎます。ジェンダーギャップ指数を見れば一目瞭然です。どこか他人事な性暴力に対する消極的な姿勢を見れば一目瞭然です。

www.hikoushin.com

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この問題について、「社名が変わり事務所が無くなるのは寂しい」という意見を持つ人もいて、人権意識は一人ひとりによっても大きな隔たりがあるんだな~と残念に感じます。

ジャニーズ性虐待問題の根本にある日本人の人権意識を、海外と比較したり、自分の身の回りを見渡してみて、点検する必要があります。家父長制社会で生きてきた私たちの自身の人権意識を疑った方がいいです。

「風土」は目に見えないものに支配されすでに作り上げられているものなので、簡単に変えることはできません。日本社会を内側から変えていくのは困難です。

私自身も海外での生活経験はないけれど、日本社会に違和感を持てるのは日本の外側に目を向けて比較した時です。井の中の蛙、島国根性では疑問も持てないだろうと思うのです。

人権を考えるとき、日本の基準に合わせるのは残念ながら危険ということです。もうちょっと日本の外側を見て、国際基準で考えるべきです。

外側から日本を見て、「こんなのおかしい」と思える感覚が持てないと、人権意識を高めることなどできないと思います。

僕とジャニーズ