飛紅真の手紙

フェミニストで精神看護専門看護師ブロガー、自然、アート、社会問題を綴る。

日本版性暴力対応看護師とジャニーズ事務所性虐待問題

ジャニーズ事務所性虐待問題は、日本版性暴力対応看護師(SANE-J)の資格を取得し、これから活動していこうとする者としては黙っていられず、ブログで意見を述べてきました。

 

1.「性加害」という不透明な言葉

私は今回の問題について意見を述べるとき、必ず「性虐待」という言葉を使います。「性加害」という言葉を日本のメディアが率先して報じ、日本社会に広がったのは非常に残念です。

「性加害」って何なの?

暴力・虐待・人権侵害をオブラートに包んでナチュラルにしてぼやかし、何が行われたのか実態がつかめない。相手が大手芸能事務所のジャニーズ事務所だったことで、少しでも問題を深刻化しない形で報じようとする忖度を感じるのは私だけでしょうか?

「#MeToo」運動のきっかけとなったハリウッドの元映画プロデューサーのワインスタイン事件のときには「性暴力」と報じていました。その後、日本の「#MeToo」運動の先駆けとなった、性暴力被害を告発したジャーナリストの伊藤詩織さんも「性暴力」という言葉を使っています。

今回は、真っ先にBBCなどの海外メディアが「加害」と表現してジャニー喜多川氏について報じたようですが、それは海外メディアだから。しかし、日本のメディアがBBCに「右にならえ」の姿勢で、意図なく「性加害」と報じていたとしたら、なおのこと残念でしかありません。どこのメディアも一貫しているので、性暴力に対していかに意識が低いかがにじみ出ている気がします。

私たち性暴力の専門領域や当事者活動の中には、「性加害」という実態がわからない、本質を突いていない生易しい言葉は存在しません。「性暴力」「性虐待」という言葉を使います。刑法の性犯罪規定にもそのような言葉は存在しません。

「性加害」という言葉が子どもたちに普及したとしたら、行為が意味する本質が全く伝わらないと思います。言葉は教育的な意味もあるのだから正しく使ってほしいというのが私の願いです。

 

2.日本版性暴力対応看護師(SANE-J)を知ってもらえた

今回の問題に関して意見を発信する中、嬉しい出来事もありました。

性暴力やDVを受けた当事者として発信を続けているブロガーさんたちから、日本版性暴力対応看護師について関心をもっていただき紹介していただけたことです。専門職ではなく当事者の方にこそ、「これは必要!」という実感とともに紹介していただけることが私にとって価値も意義も大きいことです。

 

DVからの回復について発信されている、まなさん(id:manaasami)。

manaasami.hatenablog.com

ご自身の回復までの体験を書籍として出版されています。まなさんの真摯な語りに胸を打たれ、DVや共依存についてもたくさんたくさん考えました。↓ ↓ ↓

いつか愛せる―DV(ドメスティック・バイオレンス)共依存からの回復

 

そして、性虐待サバイバーとして発信されている矢川冬さん(id:yagawafuyu)。↓ ↓ ↓

yagawafuyu.hatenablog.com

Amazonで注文していたご著書が届いたので、これから心して読ませていただきます。47都道府県の図書館に寄贈され、相互貸借サービスでどの図書館からでも借りられるよう心遣いをされています。↓ ↓ ↓

もう、沈黙はしない・・性虐待トラウマを超えて

 

性暴力を告発したジャーナリストの伊藤詩織さんもご著書『BlackBox』で、

被害の翌日、検査や相談のために性暴力被害者を支援するNPOに電話をしたのに、面接で直接話を聞いてからでないと情報提供できない、と言われ、病院もホットラインもあてにならなかった、と述べていました。

結局、伊藤詩織さんは最初に適切な情報を与えられなかったことで、警察で被害を訴えるまでに5日経ってしまい証拠採取が困難になったと指摘しています。

『BlackBox』を読んだのがちょうどSANE養成プログラムを受けていた時で、SANEを志す者として衝撃的でした。

正しいエビデンスを学んだ専門職の育成が重要です。民間委託されたワンストップ支援センターでは、犯罪被害者支援を学んだ一般のボランティアが電話相談や付き添い支援をしているところもあり、必ずしも性暴力に特化した支援者が配置されているとは限らないのです。

まだ全国に4分の1しか整備されていない「病院拠点型ワンストップ支援センター」(証拠採取、性感染症検査、妊娠検査、緊急避妊ピル処方、問診、診察、相談が病院で一度にできる)が全国に整備され、SANEが24時間配置され活躍できると、多くの当事者が救われるだろうと考えています。

それこそ国が主導して47都道府県に1つの設置を義務付けるべきです。「病院拠点型ワンストップ支援センター」の設置には人材が必要なので、人材が充足した国公立病院が率先して設置するよう、国の強い呼びかけがなけければ、いつまで経っても全国には整備されないと感じます。

Black Box (文春文庫)

 

3.「One is too many」=1人でも、一度でも多すぎる。

当事者の体験を知る中で、被害を受けたばかりの当事者に最初に会う人、打ち明けた人の対応や言動がいかに重要かを痛感しました。家族や医療従事者であっても二次被害(セカンドレイプ)を与える可能性もあり、証拠採取し犯人逮捕できる可能性も減らしかねません。

今回のジャニーズ事務所の性虐待問題で、性暴力を受けるのは女性だけではないという実態が広く知られたのではないでしょうか。

ジャニー喜多川氏1人によって60年以上、数千人にも上るといわれる人類史上最悪の性虐待事件が起こりましたが、性暴力は身体的外傷以上に精神も魂も人権も踏みにじられる暴力であるため、「One is too many」1人でも1度でも多すぎます(←これは、アメリカ政府による性暴力対策のポリシー)。

ここ最近、小児性愛障害(ペドフィリア)についての専門書を読んでいるのですが、小児性愛加害者一人につき、多い人で生涯に数百人の被害を出す、ともいわれています。相手が子どもなので被害を訴えることができず表面化も事件化もしないのです。

小児性愛加害者が性犯罪を止められるのは逮捕された時。ジャニー喜多川氏のような性虐待は実は珍しくないのかもしれない・・・という恐ろしい現実がこの世の中に横たわっているのです。

小児性愛障害とは区別されるのが、家庭内の性虐待。子どもに性虐待をするのは親、きょうだい、祖父、親戚などであって、そのほとんどは小児性愛障害ではないのです。そして、子ども1人に対し数年~十数年という長期間にわたって甚大な性虐待を与えるという特徴があります。

ずっとタブー視されてきた性暴力は「#MeToo」運動以降、やっと声を上げられるようになってきましたが、家庭内の性虐待についてはまだまだ闇の中。タブー中のタブーなのです。

ジャニー喜多川氏による人類史上最悪の性虐待によって、家庭内の性虐待というパンドラの箱が開けられ、一人でも多くの子どもが守られることを願うばかりです。