この日を待ってました!!よだれが出そうなボディ・ホラー映画が公開されたので、映画館で観たいと思い観てきました♪
「グロい」という評判よりも、「女性として落ち込んだ」というのが率直な感想です。
ストーリー
元トップ人気女優エリザベスは、50歳を超え、容姿の衰えと、それによる仕事の減少から、ある新しい再生医療<サブスタンス>に手を出した
摂取するや、エリザベスの背を破り脱皮するかの如く現れたのは若く美しい、“エリザベス”の上位互換“スー”。抜群のルックスと、エリザベスの経験を持つ新たなスターの登場に色めき立つテレビ業界。スーは一足飛びに、スターダムへと駆け上がる。
一つの精神をシェアする存在であるエリザベスとスーは、それぞれの生命とコンディションを維持するために、一週毎に入れ替わらねばならないのだが、スーがタイムシェアリングのルールを破りはじめ―。
1.医療系ボディ・ホラーといっても過言ではない
看護師の私も興奮するほど、素人が静脈注射や腰椎穿刺(ルンバ―ル)、縫合する描写があったりして、かなりリアルで秀逸でした。
エリザベスが、正中皮静脈に「サブスタンス」を注入する時、「いい静脈💛」「刺した~い💛」という看護師あるあるの興奮を感じました(笑)。
与えられた「器具」の説明書きもないのに、年の功なのか、自分で推測してやってちゃう、という頼もしさ(笑)。
「自分の人体で実験」というボディ・ホラーならではのスリルがこの映画の醍醐味です。
カンヌ脚本賞を受賞するほど、考え抜かれた再生医療のリスクとベネフィット。48歳女性監督の「こんな再生医療あったらいいな」という願望から生まれたんだろうな、と想像します。
美容医療によって壊れていく人気モデルを描く映画『へルタースケルター』がよぎりました。
誰が何の目的で「サブスタンス」を発明し提供してくれるのか(たぶん人体実験だと思うけど)、詳細な種明かしがないところも、見終わった後まで考え続けてしまう仕掛けです。
2.すべての女性を苦しめるエイジズム&ルッキズム
いや~、何と言ってもこの映画の主題は、
エイジズム(年齢差別)
ルッキズム(外見至上主義)
の、容赦のない風刺だと思います。
女性じゃないと分からない「若さへの執着」の見苦しさが、滑稽に見える分、やけに落ち込みましたね~。私自身の中の「老いに対する抗い」「若いままでいたい願望」を見せつけられるような、鏡現象を引き起こすつらい映画でもある(泣)。
やはり「外見の老い」=「エイジズム&ルッキズム」は、男性に向けるよりも女性に対しての方が、よりアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が強いのではないかと思います。
「女性は若くて美しくあるべき」という価値観を社会が女性に背負わせ、女性自身も無意識に内面化してしまっている。
3.私のエイジズム&ルッキズムの内面化
いつからエイジズム&ルッキズムが内面化したんだろう?と思い起こすと、小学生時代かなと。
毎朝食卓にフジテレビの「めざましテレビ」が流れるという我が家の文化は、大学生、何なら実家に里帰り出産で帰省するまで続きました。
私は、今話題の「女子アナ」を生み出した悪しきフジテレビのエイジズム&ルッキズム文化を浴びに浴びて育った世代なのです。
正直、女子アナが芸能人のようにちやほやされるとか、街角ファッションとか、女子中高生の流行とか、中身のないくだらないニュース番組が子どもながらに大嫌いでしたが(ほんとはNHKニュースを観たかった)、何を隠そう父がめざまし推しなんですよね笑。
「朝は軽いのがいいんだよ」とかなんとか理由をつけ、絶対に8チャンネルに合わせるという・・・(泣)。フジテレビを見て育った世代の男性は女子アナ好きですよね。女子アナ=男性を立てもてはやす清楚系女子(家父長制の権化)というアイコンみたいな存在です。それをそのまま求められる日本の女性はたまったもんじゃぁない。
「ルッキズム=悪」みたいな価値観やコンプライアンス、当時はゼロでしたし、「若くて美しいものが正義」という雰囲気が世間を覆い、「女子高生はミニスカにルーズソックス」が大流行していました。それを公共の電波で扇動していたのがめざましテレビ。
そんな中でも突如「ヤマンバファッション」が登場し、正直美しくないのになんか尖ってて「可愛いへの抵抗?」かと内心爽快感あったのを思い出します。
就職や大学院進学、結婚出産を経て、もう若くなくなり、「女性」ということ以外のさまざまな価値感を内面化していくと、近頃ようやく「ルッキズム」から解放されたかも、と思います。中性的で個性的なファッションが好きな自分も、アクセサリやネイルが好きじゃない自分も肯定できた。
けど、「エイジズムの呪縛」はなかなかキツイ。歳重ねるごとに葛藤が強くなっていき、解放されるどころかますます苦しんでます。もはや人間の性かもしれない。人間は18歳で肉体が完成するっていうし、25歳が妊孕性(妊娠しやすさ、妊娠出産適齢期)のピークなので、動物として考えれば「老い=悪」、若い方がいいに決まってます。
人間が社会的な生き物になって初めて、「老いは悪くない」という価値観を見出したのだから。人生100年時代に「老い」を受け入れないわけにはいかないから。
一介の看護師の私ですら「エイジズムの呪縛」からは逃れられないので、本作の元人気女優エリザベスなど美を商売にする人たちは、命がけなのでしょう。一瞬でも美と若さが取り戻せるならば、自分を壊してもいい。そして、「美と若さ」のその先にある「承認欲求」を追い求める気持ちは容易に想像できます。
最後のシーンが物語る、この映画のもう一つのテーマは「承認欲求」。
女性の哀しさは痛みとも似る。
もはや共感しかない。
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