飛紅真の手紙

フェミニストで精神看護専門看護師ブロガー、自然、アート、社会問題を綴る。

性暴力被害者支援看護職(SANE)になって決意したこと

精神科を受診される方の中には、性暴力被害後のトラウマを抱え、長期にわたり苦しむ方が多くいます。

性暴力の被害者や加害者を生まないためにはどうしたらいいのだろう?

一人でも性暴力に苦しむ人が減るために自分には何ができるだろう?

と考えた結果、性暴力被害者支援や予防啓発にも携わっていけるよう、

66時間のSANE養成プログラムを受講し、

2023年3月に性暴力被害者支援看護職:Sexual Assault Nurse Examiner(SANE)に認定されました。

先日、届いた修了証 ↓ ↓ ↓

 

性暴力被害者支援看護職(SANE:Sexual Assault Nurse Examiner)とは~

1978年に米国でSANEの養成が開始された、性暴力の被害者に適切なケアを提供するための訓練を受けた看護師・助産師・保健師です。 医療現場で二次被害(無理解や偏見による配慮のない言動に被害者が精神的苦痛を受けること)を防ぎながら、警察や医師、ワンストップ支援センターの相談員等と協力し、告訴など法的措置に備えた証拠採取や記録を行います。また、迅速で適切なケアにより被害者の心身の回復を目指します。

 

1.オンライン受講のすばらしさ

66時間のSANE養成プログラム受講には約10万円がかかり、

厚生労働省の特定一般教育訓練給付(受講料の40%が免除される制度)が受けられました。

ハローワークに4回ほど通う必要がありましたので時間コストがかかります。

常勤で精神科病院で働きながら、

さらに時短勤務で育児をしながらでも、

受講しようと決心できた一番の決め手は、

何といっても「オンライン受講ができる」こと。

土日開講だったので、家族の協力なしには修了することができませんでした。

コロナが追い風となり、2年前からオンライン受講が可能となりました。

素晴らしい最新のプラットフォームを使って、テストや動画視聴、Zoom、グループワークが快適にできました。

オンライン講座でなければ働きながらの受講は不可能だったと思います。

各種の学術集会もこれまでは遠方開催だと、子どもが小さなうちはなかなか参加できなかったのですが、

オンラインと現地開催のハイブリットがデフォルトとなった現在、

これら学術集会への参加のハードルがグーンと下がりました。

なぜこういったテクノロジーが有効活用されてこなかったのか、いまだからこそ不思議に思えるのですが、

これまでは、遠方まで行くのが当たり前、時間をかけて参加するのが当たり前、直接人に会ってこその学会なのだ!・・・と思い込んで疑いもしなかった自分に気づきました。

全国各地から専門性の高い講義をしてくれた講師陣、距離の壁を越えてこうして画面越しに講義を受けられる恵まれた環境には感謝です。

中にはオランダから講義してくださった検事もいました。

貴重な機会を与えてくれたコロナと、テクノロジーに感謝してもしきれません。

どんどん新しいことを試し、波に乗ってみることの大切さを痛感しました。

これなら、学校教育は完全オンラインでも可能じゃん、コストもかからないし・・・とも気づいてしまいました。

実際、オンライン大学もありますよね。

 

2.性暴力被害者支援はまだまだマイナーな分野

50名弱の受講生がいた中、8割が助産師だったように思います。

産婦人科、母性看護領域は性暴力被害者にファーストコンタクトするので、圧倒的に危機感も関心も高いです。

精神科の看護師は私含め5名ほどが受講していました。

精神看護専門看護師は私だけ。

やはりまだまだトラウマインフォームドケアの視点や、性暴力被害後のトラウマケアに精神科領域は追いついていない、と痛感しました。

だからこそ、そこに関わる意義があるのかも、とも感じました。

いったいどれだけ多くの、虐待サバイバー、性暴力サバイバーが精神疾患と誤診され、

誤った治療やケアを受けながら現在も苦しんでいるだろうと思うと、底知れぬ恐ろしさを感じています。

複雑性PTSDや解離性同一性障害と診断できる精神科医が少ない、

という指摘は講師や当事者の方たちも繰り返し話されていました。

「性暴力を受けていたかもしれない」

「受けているかもしれない」

「その影響で今も苦しんでいるのかもしれない」

というトラウマのメガネを掛け替えることの大切さを痛感しています👓

 

3.タブーを切り開く

講師の方はみなさん、性暴力をタブー視せず率直に、熱く語っていました。

同じ熱量で普段の生活の中で話してしまうと引かれるかもしれない、と思うくらい、

人生の中で最も、「性」と「暴力」について真剣に考えた期間だったと思います。

怒りも悲しみも同時に私の中で噴出し渦巻いていました。

人間の残酷さと、やさしさと、たくましさと、いろんなものを見た気がします。

講師がSANE養成プログラム初日に語っておられた、「暴力に対する閾値が下がるのでつらくなると思います」の一言。

本当に、これほど暴力について考えたことはなかったと思います。

「性の問題や性暴力をタブー視しない」というのは私が大切にしていることです。

性的な事柄は人間誰しも共通の関心事であり、性欲は本能であり、切っても切り離せない問題です。

食べて寝るのと同じくらい性の営みは大切です。

「いやらしい」「汚らわしい」と忌み嫌い、拒絶し、思考停止したくない。

「女性だから」「男性だから」と性について語ることを避けたくない。

タブー視するからこそ、性について語り合えず、打ち明けられず、逃げ場がなく、正しい情報も届かないのだと思います。

日本は特に「恥」の文化が根強いからこそ、性についてオープンにするハードルは高いです。

 

タブーとされていたことを切り開くのって、勇気がいるけど開放感があります。

みんなが普段疑問に思っているけど言語化しないことを、敢えて言語化してしまう。

おかしなことだらけの「精神医療を変えたい」というのが、精神看護専門看護師になった一番の理由でした。

おかしいことをおかしいって言う。間違っていることを間違っていると言う。それだけで変われることも多いと感じています。

ただ、伝え方にはものすごい工夫と戦略が必要なので、そこは大学院で学んできたつもりです。

 

4.私が決意したこと

講師の方や受講生に共通していた「何とかしたい」という熱意は共鳴するものがありました。

なんとかしたい一心でSANE養成プログラムを受講したし、性暴力被害者支援がしたかった。

被害も加害も生まないような予防教育がしたかった。

 

おかしいことをおかしいと言えるように、

間違っていることを間違っていると言えるような社会になるように、

自分にできることを些細なことでも探していこう、

考えているだけじゃなくてまず動こう、

自分の考えを言語化して一人でも多くの人に届けよう、

と、ひそかに決意したのでした。

 

★追記★

2023年7月、日本フォレンジック看護学会の認定資格である日本版性暴力対応看護師(SANE-J)に合格しました。

詳しくはコチラ ↓ ↓ ↓

www.hikoushin.com